児童養護施設で働く中で、とある子ども(以下A君)との関わりが、私の価値観や対応を大きく変えた経験があります。
A君はネグレクトを受けた過去があり、衛生面で気になる行動がいくつも見られました。
例えば、爪や鼻くそを食べたり、手の皮を剥いて口に運んだり。
食事中には茶碗を舐めたり、ご飯に直接口をつけて遊ぶこともありました。
正直、最初はその行動を目の当たりにして「なんとか改善しなければ」と必死でした。
叱ることを繰り返した日々
当初の私は、こういった行動を「ダメなことだから直さなければ」と考え、注意や叱責を繰り返しました。
「そんなことしたら汚いよ!」
「ご飯で遊ばないの!」
時には強い口調で叱ってしまうこともありました。
叱ったときの子どもの反応はさまざまでした。
あるときは、何事もなかったように笑ってごまかしたり。
またあるときは、明らかにいじけてしまい、こちらが何を言っても反応しなくなることもありました。
それでも私は、「このままではいけない」という焦りから、半年間、同じような対応を繰り返していました。
しかし、改善はほとんど見られず、むしろ関係がぎくしゃくしていくような感覚さえありました。
変わらない現実に、私も疲弊。
半年が経つ頃には、私自身が参ってしまいました。
「これ以上、何をどうすればいいのか……」と悩む日々でした。
注意するたびにこちらも気疲れし、注意する自分の事も嫌になり、子どもの行動が変わらないことに無力感さえ覚えるようになりました。
そしてある日、自分の対応を振り返るきっかけがありました。
「私はこの子にとって、本当に必要なことをしているのだろうか?」と思い始めたのです。
視点を変えると見えてきたこと
その時から、私は叱ることをやめてみることにしました。
そして、行動そのものではなく、どうしてこの子はこういう行動をするのだろう?という視点で考えるようにしました。
例えば、爪や鼻を食べる行動は、不安やストレスの解消法かもしれない。
茶碗を舐めるのは、食べ物や食器に対する過去の環境の影響が残っているのかもしれない。
行動の背景を探ることで、「叱る」以外の選択肢があるのではないかと思い始めました。
代わりに試してみたこと
叱るのをやめた代わりに、私はいくつかの工夫をしました。
代替行動を提案する
爪を噛む代わりに、握るおもちゃやストレス解消グッズを渡してみる。
手の皮を剥く場合には、保湿クリームを塗る習慣を一緒に始める。
衛生の大切さを少しずつ教える
「汚いからやめなさい」と言うのではなく、「こうすると、もっと気持ちよく過ごせるよ」とポジティブな言葉で伝える。
小さな成功をほめる
行動が少しでも改善したときは、「きれいに食べられたね!」「上手に爪を切れてるね!」とすぐに褒めるようにしました。
安全な環境を整える
危険な行動が起きにくいように、部屋の中を整えたり、一緒に活動を増やして安心感を与えることを心がけました。
少しずつ見えた変化
これらを意識して半年ほどが経つと、少しずつではありますが変化が見られるようになりました。
茶碗を舐める行動が減り、食事中の遊びも少なくなりました。爪を噛む頻度も減り、時には「先生、爪切って」と自分から声をかけてくれることもありました。
何より、子どもの表情や態度が柔らかくなり、叱られることを恐れるような反応が減ったのを感じました。
まとめ
今回の経験を通して感じたのは、行動の背景にある子どもの気持ちや過去を理解し、寄り添うことの大切さです。叱ることをやめたことで、私自身の心にも余裕が生まれ、子どもとの関係が少しずつ前向きになっていきました。
児童養護施設では、子どもの問題行動にどう向き合うか悩むことも多いかと思います。でも、焦らずに視点を変え、子どもを丸ごと受け止める姿勢を持つことで、きっと何かが変わるはずです。
これは私自身の経験からの学びですが、少しでも誰かの参考になれば幸いです。